2022/01/10

『鈍い誤差』

 

 今日は古い記事を音声で聞き返していた。ある学者は、人間は思う以上に数を扱えていないと言っていた。感覚だけで世界を測り、その誤差を誤差だと気づかないまま生きている、と。

 その言葉は妙に耳に残った。ゾーンでも同じだ。足跡の深さ、風向き、ガイガーカウンターの鳴り方。経験は役に立つ。だが経験だけでは、いつか必ず死角が生まれる。思い込みは静かに積み重なり、やがて現実そのものを歪めてしまう。

 私も多くを感覚で判断している。たぶん間違いも多い。けれど周囲も同じように曖昧だから、その歪みは日常に埋もれてしまう。誰も正確な輪郭を測ろうとしないまま、曇った認識だけで歩き続けている。

 小さな誤認なら笑って済む。だが長く積み重なれば、やがて誰かを傷つける。科学や理屈を失った場所では、恐怖も妄信も簡単に増幅する。ゾーンの噂話がそうだ。確かめられていない話ほど、人は嬉しそうに信じる。

 自分だけが損をするなら構わない。だが他人にまで歪みを渡せば、それは責任になる。未来に残るのは理想の標語ではなく、積み残された誤差の山なのかもしれない。

 難しい理論を理解することは容易ではない。それでも、せめて単純な計算くらいは丁寧に積み上げるべきだと思う。感覚だけでは見えないものがある。静かな理屈は、ときどき人間を生かしてくれる。