雨の匂いを吸った古紙と、埃の気配が漂う廃棄された書店の隅に、最近になって保存食や茶葉を積み上げた棚が出来ていたらしい。私には値札も包装の色も見えない。だが、通路を行き交う者達の靴音と、紙袋を擦る乾いた音だけで、そこが妙に人を集めていることは解る。
聞けば、期限の近い食料を安く流し、無駄に腐らせる前に誰かの腹へ押し込むための場所だという。
ゾーンの外では、それを“食品ロスを減らす活動”と呼ぶらしい。
棚には菓子、茶、即席食品。そしてお馴染みのブレッド。特に火と湯さえあれば胃に流し込める類のものが並んでいるそうだ。トレーダーの話では、一、二か月で期限を迎える品も混ざっていたが、多くは半年ほど猶予が残されているという。なので値段は数割落ちにしているらしい。まるで放射線に焼かれる前の物資を、慌てて地下壕へ運び込むスカベンジャーのやり口だ。まだ使える。だが長くは持たない。その半端な命に時に法外とも言える値札が付いている。
中には、期限切れそのものを売り文句にしているトレーダーまで居るらしい。安値で山積みにされた、一般観光客向けの缶詰や菓子は、“フードロス削減”という綺麗な旗を掲げながら、実際には店にとっては倉庫を空にする都合のいい処分法であり、買う側にとっては多少の劣化を承知で安さを拾うための取引でもある。
確かに誰も損をしない建前だ。腐る前に流す者と、多少危うくても口へ運ぶ者。その利害が噛み合って商売になっている。
似たようなことをするサイトもネットにあるそうだ。
見えない回線の奥で、期限の迫った品々が静かに流され、誰かの食卓へ回収されていく。
ゾーンで拾われる旧世界の残骸と同じだ。昨日まで“不要品”だったものが、今日には誰かの生存を支える。
人間は案外、捨てる寸前の物で生き延びられる生き物らしい。