私にとって、布地というものは、目で眺めるためだけのものではない。
指先へ伝わる織りの密度や、糸のわずかな起伏――そうした触感の積み重ねによって、ようやく輪郭を持つ。近頃、そんな感覚だけを頼りに、刺繍入りのカーテンを仕立ててみようと思い立った。
窓辺に掛かる布は、部屋の空気を変える。 朝の風を受けた時の揺れ方も、閉じた際の静けさも、そこに在るだけで私室の印象を大きく左右する。まっさらな布地へ、ひと針ずつ慎重に糸を通していく。 視界ではなく、指先の記憶だけを頼りに模様を辿る作業は、思いのほか心を落ち着かせた。
時折、針先がわずかに布を外れ、自分でも気づかぬ歪みを作ってしまうこともある。 だが、それすら手仕事らしい味わいなのかもしれない。
完成した刺繍が、果たして整った意匠として成立しているのか――正直なところ、私には確かめようもない。
それでも、自らの手で縫い上げた布を窓辺へ掛ける瞬間、不思議な満足感があった。陽射しを受けた布地が微かに揺れるたび、指先で積み重ねた時間だけが、静かにそこに残っている気がするのだ。